屋上アナザー (2011.01.02.)

「全く、昼休みにこんなところで何やってるのよ」
「こんなところとは藪から棒に何なんだよ君は。これはあれだよ、こうして屋上から変わりゆく風景を眺めながら、その、今日という日は二度と無いのだなあ、とかそういうセンチメンタリズムだね」
「思いつきで出鱈目言うのはやめなさいな。どうせお弁当忘れてきて小銭の持ち合わせも無いから人のいない場所で空腹を紛らわそうとかそんな魂胆でしょ」
「・・・君はアレか、エスパーとかさとりとかそういうアレか」
「普段は教室でお弁当食べるのにそれをしないってことは、持ってきてないんでしょ。あと、昨日の帰りに文庫本買ったときに財布の中身だいたい使い切ってたけど、どうせ中身足してないだろうし」
「正解だよ。ご褒美に5点あげよう」
「何の5点よ。・・・パン買ってきたから食べたら?」
「いや、それは悪いよ」
「もう買っちゃったんだし、あんたが食べなきゃ余るでしょうに。その方が悪いわ」
「それはそうだろうけどね・・・」
「借りを作るのが嫌なら後で代金を請求するわよ、妹さんに」
「いやそれはマジ勘弁してください。もう姉としての威厳はゼロよ!」
「良かったじゃない、何やってもこれ以上は落ちないわよ」
「ひどいじゃないか。マジひどいじゃないか!」
「自業自得よ。・・・いいから食べなさいな」
「ん、・・・じゃあ、お言葉に甘えるか」
「・・・何だったら、これからは私が、お弁当作って持ってきても・・・」
「うん? よく聞こえない」
「別に」
「あ、こんなところにいたんですか先輩」
「こんなところとは失礼な言い様だな君も。全く君たちには屋上に対するリスペクトの精神が無いよね。景色いいじゃないか」
「いやまあ景色は別にいいんですよどうでも。そんなことより弁当作ってきたんで食べてください」
「あ、え、いや・・・」
「菓子パンとか健康によくないですよ」
「いや、でもそれはその、物事には多面的な見方が必要というかだね、人はパンのみで生きるのではないというか」
「やっぱりパン以外を食べればいいんじゃないですか」
「別にいいじゃない。じゃあそのパンは私が食べるからあんたは弁当を食べれば?」
「いや、そういうわけにも」
「・・・え、ああ、なるほど。そういうことですか。こりゃお邪魔しました」
「そんなのじゃないわよ」
「そうなんですか?」
「ええと、素直さは美徳だけれどね、人の言うことをあまり額面通りに受け取るのもどうかと思うんだ」
「ああ、じゃあやっぱりこのパンは自分で買ったんじゃなくて差し入れなんじゃないですか」
「いや、まあ端的に言えばそうなんだけど、そういう言葉ですくい切れないものも色々あるじゃないか人生って」
「人生は関係無いでしょ。・・・別にいいわよ。どうせ菓子パンなんて常温でも3日くらいは保つんだもの」
「うん? さっきと言ってることが・・・」
「駄目ですよそんなの! これ、先輩がうっかり弁当忘れてきたうえにお金も持ってなくてお腹空かせてたから先輩のためにわざわざ買ってきたんですよね? じゃあ先輩はまずそっちを食べるべきです!」
「・・・君たちはどうしてそう、他人の行動を一発で言い当てるのかな」
「いつも似たようなことしてるからでしょ」
「ですよね」
「うわ、姉の威厳に続いて先輩としての威厳もゼロじゃないか!」
「あ、いえ、私、先輩のこと好きですけど威厳とかは正直、元からあんまり・・・」
「さらに追い打ちじゃないか!」
「あの、ちょっと待って。じゃあ貴方はこいつが昼に食べるものが無いってことは知らずにお弁当作ってきたの?」
「そりゃそうですよ。家出る前に用意してきたんですから、今朝の偶発的な出来事を斟酌するのは時系列的に不可能です」
「じゃあ余った分はどうする気だったの」
「そりゃ、私が食べますよ」
「自分の分はどうする気だったの」
「それも私が食べますよ」
「食べ過ぎじゃない?」
「その分は消費すれば問題無いです。エネルギーの総量は常に保存されるから消費すれば吸収は減る道理です」
「はあ」
「それに結果としては先輩は自分の弁当を忘れてきたから余らな・・・ああ、パンがあるのか。あるんですね」
「だからそれは私が持って帰るからいいわよ」
「よくないです! 大切な人を思う気持ちは何よりも尊重されるべきれふ」
「あ、噛んだ」
「噛んだわね」
「べ、別にいいじゃないですか。まだ若いんですから、そりゃ噛みますよ」
「若さとはあまり関係無いんじゃ・・・」
「むしろ噛みまくりですよ。これからも噛み続けますよ私は。それこそ永遠にフォーエバーですよ」
「・・・うん、まあ、引っ込みがつかなくなっておかしなことになるのは若さの発露かもしれないねえ」
「だいたい、別にこんなの大切でも何でもないわよ」
「こんなのって」
「そりゃ先輩はどっちかっていうと残念な人ですけど、それとこれとは別問題ですよ」
「残念って」
「残念じゃないの」
「残念ですよね」
「威厳どころか人としての尊厳までゼロじゃないか!」
「残念なのは置いておいて、やっぱりそういう気持ちは隠したり誤魔化したりするのってよくないです」
「いや、だからそんなのじゃないわよ」
「いつも先輩のこと見てるじゃないですか。私も割とそうだからわかります」
「え、そうなの?」
「先輩はですね、率直に言わせていただくと残念なうえにちょっと鈍感だと思います」
「そこは同意するわ」
「ええと、あの、これって私は磯の白砂で泣き濡れて蟹と戯れたりなんかした方がいい流れ?」
「啄木も私生活は残念な感じだったって言いますしね」
「うん、泣く。しくしく」
「泣き濡れてる残念なのは置いておくとして、・・・じゃあ、どうすればいいっていうのかしら?」
「え? どうって・・・うん、まあ、とりあえず先輩はパンを食べればいいと思います」
「どうせ市販品だし、お弁当食べた方がいいんじゃないの」
「先輩のために用意したという発端こそが重要なのであって過程とか手段とかそういうのは別にいいんですよ。手作りで心がこもるなら加工食品産業は既に滅んでいますよ」
「またずいぶんな極論ね」
「それが若さです。というかですね、じゃあ先輩が両方食べればいいんですよ。これで万事解決です。三方一両損です」
「つまり損なんじゃないか」
「ああもう時間あんまり無いですからさっさと食べてください」
「ええと、これって私に選択権は無い流れ?」
「何も食べないと体にもよくないわよ。それに、どうせ自分で片方だけ選んで食べる決断力なんか無いじゃないの」
「ですよね」
「もうゼロを突破してマイナスじゃないか!」
「まあ一両損ですし。あとこの機会に申し述べておくと、私は先輩のこと好きですけど、私以外の人に先輩が嫌われるよりは好かれてた方がいいに決まってますし、先輩が誰を好きかもまた別の問題だと思う次第です」
「誰を好きかって、これにそんな甲斐性があると思う?」
「・・・ですよね」
「マイナスじゃないか!」

 

 あとがき
 一応恒例なので今年も何かアップしたいなあ、と思って作業に入ったのが12月の20日頃で、その1週間後くらいにはどう考えてももう間に合わないという結論に至ったというノープランっぷりの果てに、2年前と似たようなことをもう1回やってお茶を濁してみた、という感じです。ちなみにこれ自体は1日でだいたい何とかしました。
 全く同じことをやるのもどうよ、とは思ったので、地の文抜き・名前無しの縛りは残したままで人数を1.5倍に増量してバージョンアップを図ってみましたが、まあ、その。

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