狐狸反物  

 

 その日は割と経済的に潤沢だったので、駅前の居酒屋で夕食を済ませた。まあ安い店だったんだけど、普段家で食べるものよりは多少ぜいたくな内容。

 で、至極当然のように例のジャージで夕食についてきていた洗濯機さんを引き連れて、僕は歩いて帰宅していた。まあ急がないなら歩ける距離なんだけど、それ以上に洗濯機さんとバスに乗ると色々と面倒なことになりそうだという危惧もあった訳で。

 たまにコンビニとかスーパーとかもあるけど基本的に住宅地なので、その道は夜はとにかく暗くて人気もない。日中からあまり天気もよくなくて、結果として月もない夜道をてくてくと歩いていると、
「ねねね、あんなところに一反木綿がいるですよう」
 などと洗濯機さんがまたとんでもないことを言い、前方を指さした。
「一反木綿って、・・・・え」

 そこには白くて細長くてひらひらしてて眼がちょっと怖い妖怪はいなかったけど、何故か赤っぽい色で模様の入った細長い反物のようなものが、おおむね地面に垂直な向きにひらひらしていた。

「・・・あれは木綿じゃないんじゃないかな」
「じゃあ何なのですか?」
「いや、だから反物・・・」
「反物がどうしてこんなとこで細長く伸びてるですか」
「誰かが吊り下げたんじゃないかな」
「いや、そりゃありませんぜ、旦那」
 洗濯機さんはたまに時代劇モードになる。
 どの辺にスイッチがあるのかは今ひとつわかりかねるけど。
「上を見ておくんなまし。一体どこから吊り下げていると、そなたは言うのかや」
 洗濯機さんの文体変換機能はどうも壊れているけど、わざとじゃない可能性も否めないのが怖いところではあって、でもこの時は実際に上を見上げる(二重表現かな、これって)とけっこう予想外というか、俄かには信じがたい光景が展開していた。

 とは言っても例えばセミ星人の地球侵攻の尖兵たるロボット怪獣・ガラモンが飛来していたとか、空がRGB変換で調整したかのように緑色だったとか、空の向こうにスペースコロニーっぽく「反対側の地表」が見えていたとか、空の上にシドがあったとか(このセンスにはついていけない、と思う人も多いかもしれない)そういう劇的で愉快な(愉快かな)話では全然なくて、単に反物の端がずっと空の彼方に伸びていて全く見通せないというだけの話だ(だけ、かな)。
「・・・ねねねね、こんな長いの吊れないよね」
 文体変換を解除したらしい洗濯機さんは何故か自慢気に言うけど、
「それはわかるけど、じゃあこれは一体どういうことだと思うよ」
「何だ、そんなことわたしに解る訳がないじゃないですかあ」
 と、むしろ威張った感じで返されてしまった。

 

 

補足あとがき

相変わらず投げっぱなしでお送りする洗濯機さんシリーズ第3弾。先週ネタを思いついて3日程で完成しました(他の作業を並行していたからで、専念すれば1日で済んだと思うけど)。

ちなみに今回は不条理じゃなく妖怪のお話なのかもしれない。違うかもしれないけど。

 

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